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【分析】Lucency とは何者か — 米国では allowance 止まりの馬が、なぜパドレガルシア新競馬場で無敵になったのか
Cecilフィリピンで4連勝中の Lucency(父 Tapwrit)は、米国では「強豪」ではなく「堅実な条件馬」だった。
米国での通算成績は18戦6勝、賞金は約30万ドルで、走ったのはメイデン(新馬)戦と allowance(条件戦)が中心、重賞勝ちはない。
しかも1歳時の落札価格はわずか1万8千ドルで、米国の物差しでは安価な部類の馬だった。
その馬が、パドレガルシア新競馬場では2つのコースレコードを持ち、4連勝で累計38.5馬身という着差を残している。
血統は Belmont 馬 Tapwrit を父、名繁殖牝馬の父として知られる Giant’s Causeway を母父に持つ正真正銘の良血だ。
Lucency の正体は、米国の条件戦級の良血馬がフィリピンの現役世代に対して能力上位に立った、という構図である。
Lucency の血統と素性
Lucency は2020年3月24日生まれの栗毛の牡馬で、父 Tapwrit(USA)、母 Crowning Affair(USA)、母父 Giant’s Causeway(USA)という血統だ。
生産はケンタッキー州の Whisper Hill Farm。
このノースアメリカの生産・所有者は Mandy Pope で、過去に名牝 Havre de Grace や Royal Delta を競りで競り落としたことで知られる馬産家だ。
良血を集める生産者のもとで生まれた馬、という出自がまず確認できる。
血統の役割を整理しておく。
- 父 Tapwrit(種牡馬): 競走馬としては2017年の Belmont Stakes(米3冠最終戦)を勝った馬。現在は Gainesway で種牡馬として供用されている。
- 母 Crowning Affair(繁殖牝馬): Giant’s Causeway を父に持つ鹿毛の牝馬で、母は Capote’s Crown(父 Capote)。Lucency を産んだ母にあたる(詳細は後述)。
- 母父 Giant’s Causeway(繁殖牝馬の父): 競走馬としても種牡馬としても一流だったが、ここでは「母方の血を供給した馬」として効いている。
父 Tapwrit — Belmont を勝った Tapit 産駒
父 Tapwrit は、競走馬としては米国クラシックの勝ち馬だが、種牡馬としては地方の安価な存在へと位置づけが下がってきた馬だ。
2014年3月28日生まれの芦毛で、父は現代米国を代表する大種牡馬 Tapit、母は Successful Appeal を父に持つ Appealing Zophie。
競走馬としての Tapwrit は13戦4勝で、2017年の Belmont Stakes(G1)と同年の Tampa Bay Derby(G2)を勝ち、獲得賞金は約123万ドル。
調教は名門 Todd Pletcher が手がけた。
Belmont 制覇は父 Tapit にとって直近4年で3頭目の Belmont 勝ち馬で、Tapit 産駒が長距離クラシックで強いことを示す一例だった。
種牡馬としての歩みも見ておきたい。
Tapwrit は2015年に Fasig-Tipton で120万ドルで購買された良血馬で、引退後はケンタッキーの Gainesway で種牡馬入りした。
だが種付け料は2019年の12,500ドルから年々下がり、2024〜2025年は7,500ドル、2026年は2,500ドルとなって、繋養先もインディアナ州の Indiana Stallion Station に移っている。
代表産駒に Smarty Jones Stakes を勝った Victory Formation がいるものの、商業的には地方の安価な種牡馬というのが現在地だ。
血統の縦の流れも確認できる。
Tapit は Pulpit、A.P. Indy を経て Seattle Slew にさかのぼる血統で、米国の主流父系の一つだ。
Lucency はこの Seattle Slew 系の父を持つことになる。
母父 Giant’s Causeway — 母方に入る一流の血
母父の Giant’s Causeway は、フィリピンの現役馬の母方にしばしば顔を出す一流の血だ。
「The Iron Horse(鉄の馬)」と呼ばれた現役時代を経て、引退後は種牡馬として、そして繁殖牝馬の父として大成功した。
父は Storm Cat、母は Rahy を父に持つ Mariah’s Storm で、父系は Northern Dancer につながる。
種牡馬としては2,571頭の産駒から196頭(7.6%)のステークスウィナーを送り出している。
Lucency の血統は、父方が Seattle Slew 系(Tapit)、母方が Storm Cat / Northern Dancer 系(Giant’s Causeway)という、米国主流血統どうしの配合になる。
日本で主流のサンデーサイレンス系とは別系統で、フィリピンに輸入される米国産馬の典型的な血の構成といえる。
記録的な血統流入で扱ったとおり、近年フィリピンに入ってくる馬は、こうした米国主流血統が中心だ。
母 Crowning Affair と牝系
母 Crowning Affair は、競走馬としては Lucency と似た「条件馬」だった。
2013年5月5日生まれの鹿毛の牝馬で、父は Giant’s Causeway、母は Capote を父に持つ Capote’s Crown。
生産・所有はいずれも Whisper Hill Farm で、Lucency と同じ生産者のもとにいた繁殖牝馬だ。
競走成績は12戦1勝(2着1回・3着4回)、賞金は約5万2千ドル。
Gulfstream Park や Aqueduct などの allowance(条件戦)クラスで走り、2016年4月に Gulfstream Park のメイデン特別を勝ったのが唯一の勝ち鞍だった(出所: Equibase)。
市場での評価も見ておきたい。
Crowning Affair は1歳時に Keeneland September イヤリングセールへ上場されたが、42万5千ドルの値がついても主取り(売却不成立)となっている。
その後は繁殖牝馬として Daredevil を受胎した状態で Keeneland November セールに出され、1万5千ドルで Grumpa Bloodstock に売られた(出所: Equibase)。
父 Giant’s Causeway を持つ牝馬でも、市場で高値がついた馬ではなかった。
米国時代の Lucency — 重賞馬ではなく「条件馬」だった
ここが Lucency を理解するうえで最も重要な点だ。
Lucency は米国では重賞戦線で戦った馬ではなく、条件戦クラスの馬だった。
Equibase の集計(2026年6月26日時点、集計可能な全競走を含む)によれば、通算18戦6勝、2着3回・3着1回、賞金は約29万9,730ドル。
走った舞台は Aqueduct・Saratoga・Churchill Downs などで、レース格はメイデン(新馬)戦と allowance(条件戦)が中心、ステークス(重賞)勝ちはない(irishracing.com)。
米国の競馬は、メイデン → allowance → ステークスと番組が積み上がる構造で、Lucency は中間の allowance クラスで堅実に勝ち星を拾うタイプだった。
取引価格も、この「条件馬」という評価を裏づける。
Equibase のオークション履歴によれば、Lucency は1歳時にフロリダの OBS(Ocala Breeders’ Sales)で安価に取引され、その後に現役馬セールで売られている。
| セール | 区分 | Hip | 購買者 | 出品者 | 価格 |
|---|---|---|---|---|---|
| OBS 10月イヤリングセール | 1歳 | 478 | Arturo Villagran | Summerfield | 1万8千ドル |
| OBS 現役馬セール | 現役馬 | 773 | Pick Six Stable | AVP Training and Sales | 5万2千ドル |
1歳時1万8千ドルは、米国の競りでは安い部類だ。
Belmont 馬を父に持つ良血でも、市場では高値がつかなかった馬ということになる。
つまり、米国の物差しでは、安価で堅実だが一流ではない馬という評価になる。
それでもこの馬がフィリピンで支配的なのは、現役世代に対して能力が上位だからにほかならない。
米国の安価な条件戦級が、フィリピンの主要レースでは時計を更新して圧勝する。
この落差そのものが、現在のフィリピン競馬の競争レベルと、輸入されてくる馬の質の関係を映している。
なぜパドレガルシア新競馬場で無敵なのか
Lucency の「無敵」は、馬自身の地力と、フィリピンのレース体系の二つで説明できる。
第一に、地力の差だ。
米国の allowance クラスで賞金約30万ドルを稼いだ馬は、現状のフィリピンの現役世代に対しては明確に能力上位といえる。
Lucency はパドレガルシア新競馬場で1300mを1:14.60、1650mを1:38.48で走り、いずれもコースレコードを保持している。
1650mのレコードは、今年3月に56kgを背負って54kgの Buzz Rocket(カリフォルニアクロームの半弟)に13馬身差をつけた際のものだ。
同じ3月には、現地の Group 3 にあたる Philracom – Manila Horse Power Stakes Race III も制している。
第二に、レース体系だ。
Lucency が勝っているのは、勝利による斤量加増(ペナルティ)のない特別条件戦が中心で、勝っても次走で重い斤量を課されない。
急成長中の能力上位馬が、そのまま勝ち続けやすい設計になっている。
この構造の詳細はポルシェ・カップ圧勝の記事で整理した。
地力で上回る輸入馬と、ペナルティのない番組が組み合わさった結果が、4連勝・累計38.5馬身という数字だ。
ただし、この優位が永続する保証はない。
レーティングが実力に追いつき、相手や斤量・距離の条件が動けば、同じ着差で勝ち続けられるとは限らない。
現時点の「無敵」は、良血の条件馬という地力と、フィリピンのレース体系がかみ合った結果として読むのが正確だ。
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まとめ
Lucency は、米国では18戦6勝・賞金約30万ドル、1歳時の落札1万8千ドルの allowance クラスの馬で、重賞勝ちはなかった。
父 Tapwrit は2026年の種付け料2,500ドルの地方種牡馬、母 Crowning Affair は1万5千ドルで取引された条件馬で、父も母も本馬自身も、米国の市場では高く評価された馬ではない。
その馬がパドレガルシア新競馬場でコースレコードを連発し、4連勝で累計38.5馬身を残しているのは、Belmont 馬 Tapwrit と名繁殖牝馬の父 Giant’s Causeway を血に持つ良血の地力が、現役世代に対して上位だからだ。
そこにペナルティのない特別条件戦という体系が重なり、優位が結果としてそのまま表れている。
米国の条件馬が現地で支配的になるという構図は、フィリピン競馬の競争レベルと輸入馬の質を測る一つの目安として、今後も追っていきたい。
Sources
- irishracing.com「Lucency (USA)」プロフィール(血統・米国成績)
- Horse Racing Nation「Lucency」プロフィール(父母・生産者・米国の所有者/調教師)
- Equibase「Horse Profile for Lucency」
- Wikipedia「Tapwrit」(Belmont 制覇・血統・種牡馬入り)
- Gainesway「Belmont Stakes winner Tapwrit enters stud at Gainesway」
- Philstar Pang-Masa「Lucency kampeon sa 4YO Imported-Local Challenge race」(2026年3月3日付)
- Philippine Jockey Club「Lucency Dominant in Porsche Cup」(2026年6月25日付)
- Philippine Jockey Club「Lucency Aiming for the Quadrella」(2026年6月20日付)
よくある質問
Lucency はどんな血統の馬ですか?
父は2017年の Belmont Stakes を勝った Tapwrit(USA)、母は Giant's Causeway を父に持つ Crowning Affair(USA)です。2020年3月24日生まれの栗毛の牡馬で、ケンタッキー州の Whisper Hill Farm(オーナーは Mandy Pope)が生産しました。(出所: irishracing.com / Horse Racing Nation の Lucency プロフィール)
Lucency は米国でも強い馬だったのですか?
米国では強豪というより堅実なクラスの馬でした。Equibase によれば通算18戦6勝(2着3回・3着1回)、賞金は約29万9千ドルで、Aqueduct・Saratoga・Churchill Downs などのメイデン(新馬)戦と allowance(条件戦)で走り、重賞勝ちはありません。Aqueduct と Churchill Downs で勝っています。(出所: Equibase / irishracing.com、2026年6月26日時点)
Lucency の父 Tapwrit はどんな種牡馬ですか?
Tapwrit は Tapit を父に持つ2014年生まれの芦毛で、競走馬としては13戦4勝。2017年の Belmont Stakes(米3冠最終戦・G1)と Tampa Bay Derby(G2)を勝ち、獲得賞金は約123万ドルでした。引退後はケンタッキーの Gainesway で種牡馬入りしましたが、種付け料は2019年の12,500ドルから下がり続け、2026年は2,500ドル、繋養先もインディアナ州の Indiana Stallion Station に移っています。(出所: Wikipedia / Equibase)
なぜ Lucency はパドレガルシア新競馬場で無敵なのですか?
米国で条件戦クラスだった良血馬が、フィリピンの現役世代に対しては能力上位だからです。加えて勝っても斤量が増えない特別条件戦が中心で、上り馬がそのまま勝ち続けやすい構造があります。Lucency は同競馬場の1300mと1650mのコースレコード保持馬でもあります。(出所: PJC News)
Lucency はいくらで取引されましたか?
Equibase のオークション履歴によれば、1歳時に OBS(Ocala Breeders' Sales)の10月イヤリングセールで1万8千ドル(Hip 478、購買者 Arturo Villagran)、その後 OBS の現役馬セールで5万2千ドル(Hip 773、購買者 Pick Six Stable)で取引されています。米国では高額馬ではありませんでした。(出所: Equibase)